Language
-
About
-

はじめに

「青景プロジェクト」は、山口県美祢市秋芳町の※1限界集落を舞台とする長期的なドキュメンテーション(映像や写真などの記録収集)プロジェクトです。※2日本の人口問題に興味をもった海外在住の若手日本人メンバーが中心となり、秋吉台北部の中山間地域にある※3青景村で一軒家を借りて、村民の皆さんと協力をしながら集落のいまを記録します。

※1 限界集落

限界集落の「限界」という語感から、負のイメージをもつ人も少なくないのではないでしょうか。私たちは、集落に住む方々への聞き取りや調査をとおして、そんな限界集落の既成概念に疑問を抱くようになりました。そこは、本当に「限界」を迎えつつある場所なのでしょうか。青景村の変遷を長期間追い続けることで、その答えを探ります。

※2 日本の人口問題

日本では少子・高齢化の結果、大規模な集落群の消滅が起こりつつあります。私たち日本人は、世界に先駆けて人口動態の新たなフェーズを迎える「人口問題のパイオニア」です。

※3 青景村

山口県美祢市秋芳町にある人口101人の集落。総人口のうち65歳以上が半数を超える限界集落。村民のほぼ全員が営農組合に所属し、多くの祭事や毎年2月に実施される山焼きなどの伝統を守ります。高級果物として知られる秋芳梨が有名です。

青景プロジェクト概要

青景村の将来を、写真のドキュメンテーションと映像ドキュメンタリーによって記録していきます。

使い捨てカメラによる写真のドキュメンテーション

村民と村を訪問した人々によって撮影された写真をウェブで公開する、村のクロニクル(年代記)です。村民の皆さんに使い捨てカメラを配布し、撮影してもらったものを現像、プリント、スキャニングし、ウェブに掲載します。撮影された写真(撮影日、撮影者名、撮影場所)をアップデートします。

青景の日常風景を収めた映像ドキュメンタリー

将来の映画祭や映画館での作品上映を目指して、青景に住む人々の日常風景を撮影します。2016年夏の撮影をとおして短編ドキュメンタリーをつくります。2020年までに、撮りためた素材を使って長編ドキュメンタリーの完成を目指します。長編ドキュメンタリーでは、均一な時間の流れや時間軸を超えた物語(ナラティブ)を紡ぎます。

Manifesto
-

生の痕跡としてのドキュメント

運動会を記録するホームビデオ、家族旅行で撮る記念写真、友人や恩師への手紙、私たちがこうした媒体を使ってコミュニケーションをするとき、その行間には無意識の感情の足跡のようなものが残ります。私たちは、この足跡のようなものを「ドキュメントに焼きつけられた生の痕跡」と呼びます。私たちは本プロジェクトで記録された「生の痕跡」を根拠に、日々の生活で忘れがちないまここを生きる(ephemeral)という感覚や現代日本人の奥底にある死生観に挑戦します。

Comments
-

想起させる人

この土地に縁もゆかりもないわたしが、山口県でプロジェクトをはじめることになったのは、青景村の営農組合を主催する吉村さんの影響が大きい。吉村さんに出会ったのはわたしが秋吉台国際芸術村でコーディネーターを勤めた2015年のことだった。消極的なわたしを捕まえて、様々な話をしてくださった。

例えば、日本でArtist in Residenceの概念が広がる前から『交流の館』の運営を独力ではじめられ、後に秋吉台国際芸術村が設立されるきっかけとなった芸術村運動を展開されたこと。また青年時代に仲間たちと直談判し、東洋郵船の社長から客船オリエンタルクイーン号を貸し切って、『青年の船』(山口出身の若者たちがアジア諸国を訪問する事業)を実現したことなど、強く印象に残る話があった。しかし、その話以上にわたしの注意をひいたのは、独特の間合いでわたしの返答や反応を吟味し、誠実で注意の行きとどいた言葉をつかう吉村さんの人となりだった。吉村さんは、オルグの天才、乱暴な言い方をすれば、教唆の天才だ。著名な音楽家や建築家、演劇の第一人者、政界の重鎮、大企業の社長、これまでどれほどの人間を口説いてきたのだろう。勝手にこの青景プロジェクトを企画することで、図らずも、わたし自身がそのリストの末席に名前を連ねることになった。

しかし考えてみれば、口説かれた人たちもただ一方的に言いくるめられたわけではない。吉村さんと彼らを繋げた、なにか目に見えない力があるように思う。わたしはこれを、便宜的に「よき日本」と名づける。義理や人情など「よき日本」の機微を察する者と共鳴する。これは必ずしも物理的な時代区分に依らず、各々が育ってきた環境や素養の影響が大きい。我が身に翻って考えると、幼少期から教師であった祖父から、道徳や情緒の面で強い影響を受けた。わたしの体に刻み込まれた「よき日本」が吉村さんや青景の人々がもつそれに感応することで、わたしが引き寄せられた磁場のようなものが形成されたのではないだろうか。

青景プロジェクトをとおし、わたしは村落の人々のなかにある「よき日本」を探り、記録したい。そして、現代日本において失われつつある、人を信じる力や他者との信頼関係を築くということ、について学びたい。

ことばの力や思いやり、共感力や想像力を信じ、「見えないもの」を感じることができるよう、わたしたちはあえて視覚メディアである写真とドキュメンタリーをつかい、このプロジェクトに挑戦する。

青景プロジェクト代表
湯口 晃生

2人の青年

秋吉台と中国山地に挟まれた年寄りばかりの村に、2人の青年がやってきて、何の変哲もない過疎の村で映像作品を作るという。

映画も楽しみだけど、地域の人々は若者が村中を動き回るだけでもうれしい。

70才になる「ボク」も楽しい。

第13営農組合 役員
吉村 徹